PART 1

 

1 - 開端章〔アル・ファーティ

慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。

 

1. 慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。 

 

2. 万有の主,アッラーにこそ凡ての称讃あれ, 

 

3. 慈悲あまねく慈愛深き御方, 

 

4. 最後の審きの日の主宰者に。 

 

5. わたしたちはあなたにの・崇め仕え,あなたにの・御助けを請い願う。 

 

6. わたしたちを正しい道に導きたまえ, 

 

7. あなたが御恵・を下された人々の道に,あなたの怒りを受けし者,また踏・迷える人々の道で

      はなく。

 

2 - 雌牛章〔アル・バカラ〕

慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において。

 

     1. アリフ・ラーム・ミーム。 

 

     2. それこそは,疑いの余地のない啓典である。その中には,主を畏れる者たちへの導きがある。 

 

     3. 主を畏れる者たちとは,幽玄界を信じ,礼拝の務めを守り,またわれが授けたものを施す者, 

 

     4. またわれがあなた(ムハンマド)に啓示したもの,またあなた以前(の預言者たち)に啓示したものを信じ,また来世を堅く信じる者たちである。 

 

     5. これらの者は,主から導かれた者であり,また至上の幸福を成就する者である。 

 

     6. 本当に信仰を拒否する者は,あなたが警告しても,また警告しなくても同じで,(頑固に)信じようとはしないであろう。 

 

     7. アッラーは,かれらの心も耳をも封じられる。また目には覆いをされ,重い懲罰を科せられよう。 

 

     8. また人びとの中,「わたしたちはアッラーを信じ,最後の(審判の)日を信じる。」と言う者がある。だがかれらは信者ではない。 

 

     9. かれらはアッラーと信仰する者たちを,欺こうとしている。(実際は)自分を欺いているのに過ぎないのだが,かれらは(それに)気付かない。 

 

     10. かれらの心には病が宿っている。アッラーは,その病を重くする。この偽りのために,かれらには手痛い懲罰が下されよう。 

 

     11. 「あなたがたは,地上を退廃させてはならない。」と言われると,かれらは,「わたしたちは矯正するだけのものである。」と言う。 

 

     12. いゃ,本当にかれらこそ,退廃を引き起こす者である。だがかれらは(それに)気付かない。 

 

     13. 「人びとが信仰するよう,信仰しなさい。」と言われると,かれらは,「わたしたちは愚か者が信仰するように,信じられようか。」と言う。いや,本当にかれらこそ愚か者である。だがかれらは,(それが)分らない。 

 

     14. かれらは信仰する者に会えば,「わたしたちは信仰する。」と言う。だがかれらが仲間の悪魔〔シャイターン〕たちだけになると,「本当はあなたがたと一緒なのだ。わたしたちは,只(信者たちを)愚弄していただけだ。」と言う。 

 

     15. だがアッラーは,このような連中を愚弄し,不信心のままに放置し,当てもなくさ迷わせられる。 

 

     16. これらの者は導きの代わりに,迷いを購った者で,かれらの取引は利益なく,また決して正しく導かれるい。 

 

     17. かれらを譬えれば火を灯す者のようで,折角火が辺りを照らしたのに,アッラーはかれらの光を取り上げられ,暗闇の中に取り残されたので,何二つ見ることが出来ない。 

 

     18. 聾唖で盲人なので,かれらは引き返すことも出来ないであろう。 

 

     19. また(譬えば)暗闇の中で雷鳴と稲妻を伴なう豪雨が天から降ってきたようなもので,落雷の忍さから死を忍れて,(威らに)耳に指を差し込む。だがアッラーは,不信心者たちを全部取り囲まれる。 

 

     20. 稲妻はほとんどかれらの視覚を奪わんばかりである。閃く度にその中で歩・を進めるが,暗闇になれば立ち止まる。もしもアッラーが御望・ならば,かれらの聴覚も視覚も必ず取り上げられる。本当にアッラーは,凡てのことに全能であられる。 

 

     21. 人びとよ。あなたがた,またあなたがた以前の者を創られた主に仕えなさい。恐らくあなたがたは(悪魔に対し)その身を守るであろう。 

 

     22. (かれは)あなたがたのために大地を臥所とし,また大空を天蓋とされ,天から雨を降らせ,あなたがたのために糧として種々の果実を実らせられる方である。だからあなたがたは(真理を)知った上は,(唯一なる)アッラーの外に同じような神があるなどと唱えてはならない。 

 

     23. もしあなたがたが,わがしもべ(ムハンマド)に下した啓示を疑うならば,それに類する1章〔スーラ〕でも作って・なさい。もしあなたがたが正しければ,アッラー以外のあなたがたの証人を呼んで・なさい。 

 

     24. もしあなたがたが出来ないならば,いや,出来るはずもないのだが,それならば,人間と石を燃料とする地獄の業火を恐れなさい。それは不信心者のために用意されている。 

 

     25. 信仰して善行に勤しむ者たちには,かれらのために,川が下を流れる楽園に就いての吉報を伝えなさい。かれらはそこで,糧の果実を与えられる度に,「これはわたしたちが以前に与えられた物だ。」と言う。かれらには,それ程似たものが授けられる。また純潔な配偶者を授けられ,永遠にその中に住むのである。 

 

     26. 本当にアッラーは,蚊または更に小さいものをも,比喩に挙げることを厭われない。信仰する者はそれが主から下された真理であることを知る。だが不信心者は,「アッラーは,この比喩で一体何を御望・だろう。」と言う。かれは,このように多くの者を迷うに任せ,また多くの者を(正しい道に)導かれる。かれは,主の掟に背く者の外は,(誰も)迷わさない。 

 

     27. 確約して置きながらアッラーとの約束を破る者,アッラーが結ぺと命じられたものから離れ,地上で悪を行う者, これらの者は(等しく)失敗者である。 

 

     28. あなたがたはどうしてアッラーを拒否出来ようか。かれこそは生命のないあなたがたに,生命を授けられた御方。それからあなたがたを死なせ,更に匙らせ,更にまたかれの御許に帰らせられる御方。 

 

     29. かれこそは,あなたがたのために,地上の凡てのものを創られた方であり,更に天の創造に向かい, 7つの天を完成された御方。またかれは凡てのことを熟知される。 

 

     30. またあなたの主が(先に)天使たちに向かって,「本当にわれは,地上に代理者を置くであろう。」と仰せられた時を思い起せ。かれらは申し上げた。「あなたは地上で悪を行い,血を流す者を置かれるのですか。わたしたちは,あなたを讃えて唱念し,またあなたの神聖を譲美していますのに。」かれは仰せられた。「本当にわれはあなたがたが知らないことを知っている。」 

 

     31. かれはアーダムに凡てのものの名を教え,次にそれらを天使たちに示され,「もし,あなたがた(の言葉)が真実なら,これらのものの名をわれに言って・なさい。」と仰せられた。 

 

     32. かれらは(答えて)申し上げた。「あなたの栄光を讃えます。あなたが,わたしたちに教えられたものの外には,何も知らないのです。本当にあなたは,全知にして英明であられます。」 

 

     33. かれは仰せられた。「アーダムよ,それらの名をかれら(天使)に告げよ。」そこでアーダムがそれらの名をかれらに告げると,かれは,「われは天と地の奥義を知っているとあなたがたに告げたではないか。あなたがたが現わすことも,隠すことも知っている。」と仰せられた。 

 

     34. またわれが天使たちに,「あなたがた,アーダムにサジダしなさい。」と言った時を思い起せ。その時,皆サジダしたが,悪魔〔イブリース〕だけは承知せず,これを拒否したので,高慢で不信の徒となった。 

 

     35. われは言った。「アーダムよ,あなたとあなたの妻とはこの園に住・,何処でも望む所で,思う存分食べなさい。だが,この木に近付いてはならない。不義を働く者となるであろうから。」 

 

     36. ところが悪魔〔シャイターン〕は,2人を顕かせ,かれらが置かれていた(幸福な)場所から離れさせた。われは,「あなたがたは落ちて行け。あなたがたは,栗いに敵である。地上には,あなたがたのために住まいと,仮初の生活の生計があろう。」と言った。 

 

     37. その後,アーダムは,主から御言葉を授かり,主はかれの悔悟を許された。本当にかれは,寛大に許される慈悲深い御方であられる。 

 

     38. われは言った。「あなたがたは皆ここから落ちて行け。やがてあなたがたに必ずわれの導きが恵まれよう。そしてわれの導きに従う者は,恐れもなく憂いもないであろう。 

 

     39. だが信仰を拒否し,われの印を嘘呼ばわりする者は,業火の住人であって,永遠にその中に住むであろう。」 

 

     40. イスラエルの子孫たちよ,あなたがたに施したわれの恩恵を心に銘記し,われとの約束を履行しなさい。われはあなたがたとの約束を果すであろう。われだけを畏れなさい。 

 

     41. あなたがたが持っているものの確証として,われが下した啓示(クルアーン)を信じ,これを信じない者の,先頭になってはならない。また僅かな代償で,わが印を売ってはならない。そしてわれだけを畏れなさい。 

 

     42. 嘘をもって真理を被ったり,また(確かに)知っていながら,真理を隠してはならない。 

 

     43. 礼拝〔サラート)の務めを守り,定めの施し〔ザカ卜〕をなし,立礼〔ルクーウ〕に動しむ人たちと共に立礼しなさい。 

 

     44. あなたがたは,人びとに善行を勧めながら,自分では(その実行を)忘れてしまったのか。あなたがたは啓典を読誦しながら,それでも尚理解しないのか。 

 

     45. 忍耐と礼拝によって,(アッラーの)御助けを請い願いなさい。だがそれは,(主を畏れる)謙虚な者でなければ本当こ難かしいこと。 

 

     46. 敬神の仲間はやがて主に会うこと,かれの御許に帰り行くことを堅く心に銘記している者である。 

 

     47. イスラエルの子孫たちよ,われがあなたがたに与えた恩恵と,(わが啓示を)万民に先んじ(て下し)たことを念い起せ。 

 

     48. そして誰も外の者のために身代りになれない日のために,またどんな執り成しも許されず,償いも受け入れられず,また誰一人助けることの出来ない(日のために)その身を守りなさい。 

 

     49. そしてわれがあなたがたをフィルアウンの一族から救った時を思い起せ。かれらはあなたがたを重い刑に服させ,あなたがたの男児を殺し,女児を生かして置いた。それはあなたがたの主からの厳しい試練であった。 

 

     50. またわれがあなたがたのために海を分けて,あなたがたを救い,あなたがたが見ている前で,フィルアウンの一族を溺れさせた時のことを思い起せ。 

 

     51. また,われが40夜にわたり, ムーサーと約束を結んだ時のこと。その時あなたがたはかれのいない間に仔牛を神として拝し,不義を行った。 

 

     52. それでも,その後われはあなたがたを許した。必ずあなたがたは感謝するであろう。 

 

     53. またわれがムーサーに,啓典と(正邪の)識別〔フルカーン〕(の基準)を与えたことを思い起せ。これもあなたがたが正しく導かれるであろうと思ってのこと。 

 

     54. その時ムーサーはその民に告げて言った。「わたしの民よ,本当にあなたがたは,仔牛を選んで,自らを罪に陥れた。だからあなたがたの創造の主の御許に悔悟して帰り,あなたがた自身を殺しなさい。そうしたら,創造の主の御目にも叶い,あなたがたのためにもよいだろう。」こうしてかれは,あなたがたの梅悟を受け入れられた。本当にかれは,度々許される御方,慈悲深い御方であられる。 

 

     55. あなたがたが,「ムーサーよ,わたしたちはアッラーをはっきりと見るまでは,あなたを信じないであろう。」と言った時を思い起せ。するとあなたがたが見ている前で,落雷があなたがたを襲った。 

 

     56. それからわれは,死んだ後にあなたがたを甦らせた。あなたがたは感謝するであろう。 

 

     57. われは雲の影をあなたがたの上に送り,そしてマンナとウズラとを下し,「われが授ける善いものを食べなさい。」(と告げたが,い)ことをきかなかった)。かれらはわれを損なったのではなく,只自分の魂を損なったのである。 

 

     58. またこう言った時を思い起せ。「あなたがたは,この町に入り,意のままにそこで存分に食べなさい。頭を低くして門を入り,『御許し下さい。』と言え。われはあなたがたの過ちを赦し,また善行をする者には(報奨を)増すであろう。」 

 

     59. だがかれらの中の不義を行う者は,かれらに告げた言葉を,(勝手に)変えてしまった。それでわれは,それら不義を行う者の上に天から懲罰を下した。度々(わが命に)背いたためである。 

 

     60. またムーサーがその民のために,水を求めて祈った時を思い起せ。われは,「あなたの杖で岩を打て。」と言った。するとそこから,12の泉が涌き出て,各支族は,自分の水場を知った。「アッラーから授かった糧を,食べ且つ飲・なさい。堕落して,地上で悪を行ってはならない。」 

 

     61. あなたがたがこう言ったのを思い起せ。「ムーサーよ,わたしたちは,一色の食物だけでは耐えられないから,地上に産するものをわたしたちに与えられるよう,あなたの主に祈って下さい。それは野莱,胡瓜,穀物,れんず豆と玉葱である。」かれは言った。「あなたがたは,良いものの代りにつまらないものを求めるのか。(それなら)あなたがたの望むものが求められるような,どの町にでも降りて行くがよい。」こうしてかれらは,屈辱と貧困にうちひしがれ,またアッラーの激怒を被むった。それはかれらが,アッラーの印を拒否して信じないで,不当にも預言者たちを殺害したためである。これもかれらがアッラーの掟に背いて,罪を犯していたためである。 

 

     62. 本当に(クルアーンを)信じる者,ユダヤ教徒,キリスト教徒とサービア教徒で,アッラーと最後の(審判の)日とを信じて,善行に勤しむ者は,かれらの主の御許で,報奨を授かるであろう。かれらには,恐れもなく憂いもないであろう。 

 

     63. またわれがあなたがたと契約を結び,あなたがたの頭上に(シナイ)山を持ち上げた時を思い起せ。「われがあなたがたに下したものを,しっかり受け取り,その中にあるものを銘記しなさい,そうすればあなたがたは神を畏れるであろう。」(と告げた。) 

 

     64. だがあなたがたは,その後背き去った。もしあなたがたにアッラーの恵・と慈悲がなかったならば,あなたがたは,きっと失敗にうちひしがれていたであろう。 

 

     65. またあなたがたは,自分たちの中で安息日の提を破った者に就いて知っている,われはかれらに言い渡した。「あなたがたは猿になれ,卑められ排斥されよ。」 

 

     66. われはこうしてあなたがたの時代,また後代の者ヘの見せしめとし,また主を畏れる者への訓戒とした。 

 

     67. またムーサーが,その民に告げてこう言った時を思い起せ。「アッラーは,一頭の雌牛を犠牲に供えることをあなたがたに命じられる。」かれらは言った。「あなたは,わたしたちを愚弄するのか。」かれは祈った。「アッラーよ,あたしを御救い下さい。愚か者の仲間にならないように。」 

 

     68. かれらは言った。「あなたの主に御願いして,それがどんな(牛)か,わたしたちにはっきりさせて下さい。」かれは言った。「かれは仰せられる,その雌牛は老い過ぎずまた若過ぎない。その間の程良い(雌牛)である。さああなたがたが命じられたことを実行しなさい。」 

 

     69. かれらは言った。「あなたの主に御願いして,それが何(色であるの)か,わたしたちにはっきりさせて下さい。」かれは言った。「かれは仰せられる,それは黄金色の雌牛で,その色合は鮮かで,見る者を喜ばせるものである。」 

 

     70. かれらは言った。「あなたの主に御願いして,それはどんな(牛)か,あたしたちにはっきりさせて下さい。単に雌牛では,わたしたちにはどうも同じに思える。もしアッラーが御望・なら,わたしたちはきっと正しく導いて頂けよう。」 

 

     71. かれは(答えて)言った。「かれは仰せられる,それは土地の耕作にも,また畑の灌漑にも使われない,完全な無傷の雌牛だ。」かれらは言った。「あなたは今やっと,真実を伝えてくれた。」かれらはほとんど犠牲を捧げる気はなかったが,仕方なくそうした。 

 

     72. また,あなたがたが1人の人間を殺し,それがもとで栗いに争った時のことを思い起せ。だがアッラーは,あなたがたが隠していたことを,暴かれた。 

 

     73. われは「その(雌牛の肉の)一片でかれを打て。」と言った。こうしてアッラーは死者を甦らせ,その印をあなたがたに示される。必ずあなたがたは悟るであろう。 

 

     74. ところがその後,あなたがたの心は岩のように硬くなった。いやそれよりも硬くなった。本当に岩の中には,川がその間から涌き出るものがあり,また割れてその中から水がほとばしり出るものもあり,またアッラーを畏れて,崩れ落ちるものもある。アッラーはあなたがたの行うことを,おろそかにされない。 

 

     75. (信仰する人びとよ)あなたがたは,かれら(ユダヤ人)があなたがたを信じることを望めようか。かれらの中の一団は,アッラーの御言葉を聞き,それを理解した後で故意にそれを書き変える。 

 

     76. そしてかれらは,信者たちに会うと,「わたしたちは信じる。」と言う。だがお栗いだけで会うと,かれらは言う。「アッラーがあなたがたに解明されたものを,態々かれら(ムスリム)に知らせてやり,主の御前で,かれらがそれに就いてあなたがたを説き伏せる(余地を)与えるのか。」あなたがたは(かれらの狙いが)分からないのか。 

 

     77. かれらは知らないのであろうか。アッラーはかれらの隠すことも,現わすことも知り尽くされることを。 

 

     78. またかれらの中には,啓典を知らない文盲がいる,かれらは只(虚しい)願望を持ち,勝手に臆測するだけである。 

 

     79. 災いあれ,自分の手で啓典を書き,僅かな代償を得るために,「これはアッラーから下ったものだ。」と言う者に。かれらに災いあれ,その手が記したもののために。かれらに災いあれ,それによって利益を得たために。 

 

     80. そしてかれらは,「業火がわたしたちに触れるのは,何日かの間に過ぎないであろう。」と言う。言ってやるがいい。「あなたがたは,アッラーと約束を結んだと言うのか。それならアッラーは決して破約されないであろう。それともあなたがたは,アッラーに就いて知りもしないことをロにしようとするのか。」 

 

     81. いや悪い行いを重ね,自分の罪で身動きが出来なくなるような者は皆,業火の住人である。その中に永遠に住むのである。 

 

     82. だが信仰して善行に勤しむ者は楽園の住人である。その中に永遠に住むのである。 

 

     83. われがイスラエルの子孫と,約束を結んだ時のことを思い起せ。(その時われは言った。)「あなたがたはアッラーの外に,何ものも崇めてはならない。父母に孝養をつくし,近親,孤児,貧者を規切に扱い,人びとに善い言葉で話し,礼拝の務めを守り,定めの喜捨をしなさい。」だが,あなたがたの中少数の者を除き,背き去った。 

 

     84. またわれが,あなたがたと約束を結んだ時のことを思い起せ。「あなたがたは仲間で血を流してはならない。またあなたがたの同胞を生れた土地から追い出してはならない。」そこであなたがたは,これを厳粛に承認し, 自ら証言したのである。 

 

     85. それにも拘らず,その後栗いに殺し合ったのはあなたがたであり,また一部の者を生れた土地から追い出し,罪と憎し・とをもって対立し(敵に)味方した。またかれらが捕虜となった時,身代金を取っている。かれらを追放したこと(自体)が,違法であるのに。あなたがたは啓典の一部分を信じて,一部分を拒否するのか。凡そあなたがたの中こんなことをする者の報いは,現世における屈辱でなくてなんであろう。また審判の日には,最も重い懲罰に処せられよう。アッラーはあなたがたの行うことを見逃されない。 

 

     86. これらの人びとは,来世の代りに,現世の生活を購った者である。結局かれらの懲罰は軽減されず,また助けも得られないであろう。 

 

     87. こうしてわれはムーサーに啓典を授け,使徒たちにその後を継がせた,またわれはマルヤムの子イーサーに,明証を授け,更に聖霊でかれを強めた。それなのにあなたがた(ユダヤ人たち)は,使徒が自分たちの心にそわないものを(西?)す度に,倣慢になった。ある者を虚言者呼ばわりし,またある者を殺害した。 

 

     88. かれらは「わたしたちの心は覆われている」と言う。そうではない,アッラーはかれらをその冒(?)のために見限られたのである。したがって信仰に入る者は極く希である。 

 

     89. (今)アッラーの御許から啓典(クルアーン)が下されて,かれらが所持していたものを更に確認出来るようになったが,――以前から不信心の者に対し勝利を御授け下さいと願っていたにも拘らず――心に思っていたものが実際に下ると,かれらはその信仰を拒否する。アッラーの誕責は必ず不信心者の上に下るであろう。 

 

     90. 災いは,かれらが自分の魂を売ったことにある。かれらがアッラーの下された啓典を信じないのは,アッラーがよいとされたしもベ(ムハンマド)に,下された恩恵を嫉むためである。それでかれらは,かれの怒りの上に怒りを招いた。不信心者は恥ずべき懲罰を受けるであろう。 

 

     91. かれらに向かって,「あなたがたは,アッラーが下されたものを信じなさい。」と言われると,かれらは,「わたしたち(ユダヤ人)は,わたしたちに下されたものを信じる。」と言う。それ以外のものは,仮令かれらが所持するものを確証する真理でさえも信じない。言ってやるがいい。「あなたがたがもし信者ならば,何故以前アッラーの預言者たちを殺害したのか。」 

 

     92. 本当にムーサーは,明証をもってあなたがたの許にやって来た。ところがあなたがたは,かれのいない時仔牛を神として拝・,不義の徒となったのである。 

 

     93. またわれが,あなたがたの上に(シナイ)山を持ち上げて,契約を結んだ時のことを思い起せ。「われがあなたがたに下したものをしっかり受け取り,また(われの律法を)聞きなさい。」かれらは(答えて)「わたしたちは聞く,だが従わない。」と言った。この拒否のため,かれらは,仔牛(に対する信仰)を心の中に飲・込んでしまった。言ってやるがいい。「もしあなたがたに信仰があるのなら,あなたがたの信仰の命じることこそ憎むべきである。」 

 

     94. 言ってやるがいい。「もしアッラーの御許の,来世における住まいが,あなたがた(ユダヤ人)だけの特別あつらえで,外の人びとは入れないものであり,あなたがたが正しいというならば,素直に死を願い出よ。」 

 

     95. だがかれらは,その手が予め犯した(罪の)ために,決して死を望まないであろう。アッラーは,不義を行う者を熟知される。 

 

     96. かれらこそ生に最も執着する連中であることを,あなたは知るであろう。多神教徒はそれぞれ千年の寿命を望んでいる。だが仮令生き長らえても,その懲罰からは免れないであろう。アッラーはかれらの行いを凡て御存知であられる。 

 

     97. 言ってやるがいい(ムハンマドよ)。「ジブリールに敵対するのは,誰であるのか。本当にかれこそは,アッラーの御許しにより,先にあるものを確証し,また信者への導き,吉報として,あなたの心に(主の啓示を)下す者である。 

 

     98. アッラーとその諸々の天使,使徒およびジブリールとミーカールに敵対する者は,誰であるのか。本当にアッラーこそ不信心者にとっては敵である。」 

 

     99. われは,明白な印をあなたに下した。性根の曲がった者の外は,誰もこれを拒否しないであろう。 

 

     100. かれら(ユダヤ人)は約束を繕ぶ度に,その中の一派の者が,それを放棄する。いや,かれらの多くは(元来)信じないのである。 

 

     101. 使徒がアッラーの御許からやって来て,かれらの所持するものを確証すると,啓典の民の中の一派は,アッラーの啓典をまるで知らなかったかのように,背後に捨てた。 

 

     102. そしてかれらは,悪魔たちがスライマーンの王権に就いて,(偽って)述べることに従った。スライマーンは不信心ではなかった。しかし悪魔たちは不信心だったので人びとに妖術を教え,またバービル(バビロン)でハールートとマールートの両天使に授けられたものを教えた。だが両天使は,こう告げた後でなければ,誰にも教えなかった。「わたしたちは試・るだけだ。それで不信心になってはならない。」かれら(人びと)は両者から,夫と妻の間を引き離す術を学んだ。だがかれら(悪魔)とて,アッラーの御許しがない限り,それで誰も害することは出来なかった。しかし人びとは,自分に害になる,益のないことを学んだ。(この術を)購った者は,来世において何の福分にも与れないことを知りながら。ああ,何とつまらないもののために,かれらは魂を売ってしまったのか。かれらにそれが分っていたらよかったのに。 

 

     103. かれらがもし信仰して,(悪魔から)その身を守ったならば,アッラーの御許から,きっと良い報奨を得たであろう。かれらにそれが分っていたらよかったのに。 

 

     104. あなたがた信仰する者よ,ラーイナーと言ってはならない,ウンズルナーと言いなさい。そして(使徒の言葉に)耳を傾けなさい。不信者たちには厳しい懲罰が下ろう。 

 

     105. 啓典の民の中,不信心者と多神教徒は,主からあなたがたに善いことが下るのを決して喜ばない。だがアッラーは,御心に適う者に,特別な慈悲をかけられる。アッラーは偉大な恩恵の主であられる。 

 

     106. われは(啓示の)どの節を取り消しても,また忘れさせても,それに優るか,またはそれと同様のものを授ける。アッラーは凡てのことに全能であられることを知らないのか。 

 

     107. あなたは天と地の大権が,アッラーの有であることを知らないのか。またあなたがたには,アッラー以外に守護者も援助者もないのである。 

 

     108. あなたがたは,以前ムーサーが問いただされたように,あなたがたの使徒に詰問しようとするのか。本当に信仰の代わりに不信心を選ぶ者は,公正な道から迷い去った者である。 

 

     109. 啓典の民の多くは,あなたがたが信仰を受け入れた後でも,不信心に戻そうと望んでいる。真理がかれらに明らかにされているにも拘らず,自分自身の嫉妬心からこう望むのである。だからアッラーの命令が下るまで,かれらを許し,見逃がしておきなさい。本当にアッラーは凡てのことに全能であられる。 

 

     110. 礼拝の務めを守り,定めの喜捨をしなさい。あなたがたが自分の魂のためになるよう行ったどんな善事も,アッラーの御許で見出されるであろう。誠にアッラーは,あなたがたの行うことを御存知であられる。 

 

     111. かれらは,「ユダヤ人とキリスト教徒の外,誰も楽園に入いれないだろう。」と言う。それはかれらの(虚しい)望・である。言ってやるがいい。「もしあなたがたが真実なら,証拠を出して見なさい。」 

 

     112. これに反し,アッラーに自分の真心を尽くして服従,帰依し,善行に勤しむ者は,主の御許から報奨を与えられる。かれらには恐れもなく憂いもないであろう。 

 

     113. ユダヤ人は言う。「キリスト教徒は,全く拠るところがない。」キリスト教徒も,「ユダヤ人は全く拠るところがない。」と言う。かれらは(同じ)啓典を読誦しているのに。知識のない者どもは,これと同じ(ような)ことを日にする。だがアッラーは,審判の日にかれらの論争に判決を下される。 

 

     114. アッラーの聖なるマスジドで(人びとが)その御名を讃えるのを妨げたり,またそれを破壊しようとする者よりも不将な者がどこにいるだろうか。これらの者は,(本来)恐る恐るそこに足を踏・入れることしか出来ないはずである。かれらは,現世では屈辱を,また来世では厳しい懲罰を受けよう。 

 

     115. 東も西も,アッラーの有であり,あなたがたがどこに向いても,アッラーの御前にある。本当にアッラーは広大無辺にして全知であられる。 

 

     116. またかれらは,「アッラーは御子をもうけられる。」と言う。何と恐れ多いことよ。凡そ,天にあり地にある凡てのものは,かれの有であり,かれに崇敬の誠を尽くします。 

 

     117. (かれこそは)天と地の創造者である。かれが一事を決められ,それに「有れ。」と仰せになれば,即ち有るのである。 

 

     118. 知識のない者たちは,「アッラーは,何故わたしたちに話しかけられず, また印を下されないのだろう。」と言う。以前にもかれらのように言う者がいた。かれらの心は同じようなものである。しっかりした信仰を持つ人びとには,われは種々の印を既に明示している。 

 

     119. 本当にわれは,吉報と警告の伝達者として,あなたを真理と共に遣わした。あなたは業火の住人に就いて問われることはない。 

 

     120. ユダヤ教徒もキリスト教徒も,あなたを納得しないであろう。あなたがかれらの宗旨に従わない限りは。言ってやるがいい。「アッラーの導きこそ(真の)導きである。」知識があなたに下っているにも拘らず,かれらの願いに従うならば,アッラー以外には,あなたを守る者も助ける者もないであろう。 

 

     121. われから啓典を授けられ,それを正しく読誦する者は,これ(クルアーン)を信じる。それを拒否する者どもは失敗者である。 

 

     122. イスラエルの子孫よ,われがあなたがたに与えた恩恵と,(わが啓示を)万民に先んじ(て下し)たことを念え。 

 

     123. 誰一人,他人の身代りとなり得ない日のために,その身を守れ。どんな償いも受け入れられず,どんな執り成しも無駄で,誰にも助けてもらえない(その日のために)。 

 

     124. またイブラーヒームが,ある御言葉で主から試・られ,かれがそれを果たした時を思い起せ。「われはあなたを,人びとの導師としよう。」と主は仰せられた。かれは「またわたしの子孫までもですか。」と申し上げたところ,「われの約束は,悪行をした者たちには及ばない。」と仰せられた。 

 

     125. われが人びとのため,不断に集る場所として,また平安の場として,この家(カアパ)を蝕けた時を思い起せ。(われは命じた。)「イブラーヒームの(礼拝に)立った所を,あなたがたの礼拝の場としなさい。」またイブラーヒームとイスマーイールに命じた。「あなたがたはこれをタワーフ(回巡)し,イアテカフ(御籠り)し,またルクーウ(立礼)し,サジダする者たちのために,わが家を清めなさい。」 

 

     126. イブラーヒームが(祈って)言った。「主よ。ここを平安の町にして下さい。その住民に,果実を御授け下さい。アッラーと最後の日を信じる者のために。」するとかれは仰せられた。「信仰を拒否する者にも,しばしの間楽し・を与えよう。その後かれらを火獄の懲罰に,駆り立てるであろう。何と悪い帰り所であることよ。」 

 

     127. それからイブラーヒームとイスマーイールが,その家の礎を定めた時のこと。(その時二人は言った。)「主よ,わたしたちから(この奉仕を)受け入れて下さい。本当にあなたは全聴にして全知であられる。 

 

     128. 主よ,わたしたち両人を,あなたに服従,帰依する者〔ムスリム〕にして下さい。またわたしたちの子孫をも,あなたに服従,帰依する民〔ウンマ〕にして下さい。わたしたちに祭儀を示し,哀れ・を与えて下さい。あなたは度々許される方,慈悲深い方であられる。 

 

     129. 主よ,かれらの間にあなたの印を読誦させ啓典と英知を教え,かれらを清める使徒をかれらの中から遣わして下さい。本当にあなたは偉大にして英明な方であられる。」 

 

     130. 愚か者でもない限り,誰がイブラーヒームの教えを避けるであろうか。まさにわれは,現世においてかれを選んだ。来世においても,かれはきっと正義の徒の1人である。 

 

     131. 主がかれに向かって,「服従,帰依しなさい。」と仰せられた時を思い起せ。かれは,「わたしは,万有の主に服従,帰依します。」と申し上げた。 

 

     132. イブラーヒームは,このことをその子孫に伝え,ヤアコーブもまた(それにならった)。「わたしの子孫よ,アッラーはあなたがたのために,この教えを選ばれた。だから必ずムスリム(服従,帰依者)となって死なねばならない。」 

 

     133. ヤァコーブが臨終の時,あなたがたは立ち会ったか。かれがその子孫に向かって,「わたしが亡き後,あなたがたは何に仕えるのか。」と言うと,かれらは,「わたしたちはあなたの神,イブラーヒーム,イスマーイール,イスハークの神,唯一の神(アッラー)に仕えます。かれに,わたしたちは服従,帰依します。」と言った。 

 

     134. これは過ぎ去った民〔ウンマ〕のことである。かれらにはその稼いだことに対し,またあなたがたにもその稼いだことに対し(応報があろう)。かれらの行ったことに就いて,あなたがたが問われることはないのである。 

 

     135. かれらは言う。「あなたがたは正しく導かれたいならば,ユダヤ教徒かキリスト教徒になりなさい。」言ってやるがいい。「いや,わたしたちはイブラーヒムの純正の教えを信奉する。かれは,多神教徒の仲間ではなかった。」 

 

     136. 言え,「わたしたちはアッラーを信じ,わたしたちに啓示されたものを信じます。またイブラーヒーム,イスマーイール,イスハーク,ヤアコーブと諸支部族に啓示されたもの,とムーサーとイーサーに与えられたもの,と主から預言者たちに下されたものを信じます。かれらの間のどちらにも,差別をつけません。かれにわたしたちは服従,帰依します。」 

 

     137. それでもしかれらが,あなたがたのように信仰するならば,かれらは確かに正しい導きの中にいる。だがもし背き去るならば,かれらは離ればなれとなるであろう。彼らのことはアツラーに御任せしておけ。かれは全聴にして全知であられる。 

 

     138. アッラーの色染めというが,誰がアッラーよりも良く色染め出来ようか。わたしたちが仕えるのはかれである。 

 

     139. (ユダヤ教徒やキリスト教徒たちに)言ってやるがいい。「あなたがたは,アッラーに就いてわたしたちと論議するのか,かれはわたしたちの主であり,またあなたがたの主であられる。わたしたちにはわたしたちの行いがあり,あなたがたにはあなたがたの行いがある。 わたしたちは,かれに誠を尽くします。 

 

     140. またあなたがたは,『イブラーヒーム,イスマーイール,イスハーク,ヤアコーブ,とその諸支部族が,ユダヤ教徒またはキリスト教徒であった。』と言うのか。言ってやるがいい。『最もよく知る者は,あなたがたなのか,それともアッラーであられるのか。アッラーから下された証拠を持ちながら,それを隠すよりも酷い不正があろうか。』アッラーは,あなたがたの行うことに無頓着な方ではない。」 

 

     141. かれらは過ぎ去った共同体〔ウンマ〕である。かれらにはその稼ぎがあり,またあなたがたには,その稼ぎがある。かれらの行いに就いて,あなたがたが問われることはないのである。